「戦国時代」と聞くと、武将たちが勇猛果敢に馬を駆り、刀や槍で激しくぶつかり合う陸上での合戦を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
しかし、実はその裏で、日本の海を舞台にした壮絶な戦いが繰り広げられていたのです。そこには、海を駆けた男たちの知られざるドラマと、驚きの戦術がありました。
今回は、戦国の趨勢に大きな影響を与えた「海上戦」について深堀ります。
海の覇権を握るのは誰だ?戦国大名と「水軍」の密接な関係
四方を海に囲まれた日本において、海路の確保や物資輸送は、戦国大名にとって死活問題。そのため、多くの大名が専門の海上戦力、すなわち「水軍(すいぐん)」を抱え、海の覇権を握ろうとしました。
味方の兵糧や武器を安全に運ぶ「海上輸送」と、敵の補給路を断つ「海上封鎖」のふたつが、水軍の主な役割です。しかし、ひとたび敵の水軍と遭遇すれば、そこは激しい戦場と化しました。巧みな操船技術と、海ならではの戦術が勝敗を分けたのは言うまでもありません。
最強の呼び声高し!瀬戸内海を支配した「村上水軍」
戦国時代の水軍と聞いて、まず名前が挙がるのが「村上水軍」でしょう。彼らは瀬戸内海を拠点とし、その強大な戦力で海の交易路を支配しました。
村上水軍は、能島(のしま)・来島(くるしま)・因島(いんのしま)の三家からなり、それぞれが独立した勢力でありながら、時には団結して外敵に立ち向かいました。
彼らは巧みな操船術と潮流を読み解く知識を駆使し、地の利を活かした戦術で敵を翻弄。その名は全国に轟き、織田信長や毛利元就といった有力大名でさえ、彼らの力を無視することはできなかったのです。
興味深いのは、彼らが元々は「海賊」だったということ。通行料を徴収したり、時には略奪を行ったりと、海のルールを自分たちで作り上げていたのです。
織田信長の懐刀!伊勢湾から台頭した「九鬼水軍」
一方、織田信長のもとで活躍したのが「九鬼水軍(くきすいぐん)」です。伊勢志摩を拠点とした九鬼嘉隆(くきよしたか)に率いられた彼らもまた、元々は海賊的な側面を持っていました。
信長は九鬼水軍を重用しましたが、中でも有名なのが「木津川口の戦い」です。
(※注釈:記事後半で「木津川口の戦い」を詳しく解説しています。)
石山本願寺を相手にしたこの戦いで九鬼水軍は、毛利方の村上水軍を中心とする大船団と激突。当初は焙烙火矢(ほうろくひや)などの攻撃に苦戦しますが、後に信長の命で建造された「鉄甲船(てっこうせん)」を投入し、戦局を打開したと伝えられています。

海の戦士たちが乗り込んだ艦船─安宅船・関船・小早船
では、戦国時代の水軍はどのような船で戦っていたのでしょうか。主なものとして、以下の三種類が挙げられます。
これらの船を巧みに操り、連携もしながら、海戦を有利に進めようとしました。
火矢、焙烙、白兵戦!戦国海戦のリアルな戦術
海上での戦いは、陸上とは異なる独特の戦術が用いられました。
これらの戦術を駆使し、時には大砲や鉄砲も用いながら、海の男たちは命を懸けて戦ったのです。
天下分け目の海戦!「木津川口の戦い」の衝撃
戦国時代の海上戦で特に有名なのが、先にも触れた「木津川口の戦い」です。これは、織田信長と石山本願寺の長年にわたる戦いの中で、毛利氏が本願寺へ兵糧を運び込もうとした際に起こりました。
第一次木津川口の戦い(1576年)
織田方の九鬼水軍は、毛利方の村上水軍を中心とする大船団と激突。村上水軍は焙烙火矢を巧みに使い、九鬼水軍の船を次々と炎上させ、圧勝しました。これにより、本願寺への兵糧搬入は成功します。
織田方の九鬼水軍は、毛利方の村上水軍を中心とする大船団と激突。村上水軍は焙烙火矢を巧みに使い、九鬼水軍の船を次々と炎上させ、圧勝しました。これにより、本願寺への兵糧搬入は成功します。
信長は敗戦の雪辱を果たすべく、九鬼嘉隆に命じて「鉄甲船」を建造させます。これは、船体の主要部分を鉄板で覆ったと言われる画期的な船で、従来の火攻めに強い耐性を持っていました。
この鉄甲船を主力とした九鬼水軍は、再び来襲した毛利水軍を撃破。海上からの補給路を断たれた石山本願寺は、後に信長に屈することになります。
この戦いは、水軍の戦略的な重要性と、新しい技術(鉄甲船)が戦局を大きく左右することを示した象徴的な出来事と言えるでしょう。
歴史の裏に隠された海のドラマ
今回は、戦国時代の海上戦という、少しマニアックながらも非常に興味深いテーマをご紹介しました。
陸の戦いとはまた違う、海を舞台にした戦略や英雄たちの活躍は、知れば知るほど奥深いものがあります。村上水軍や九鬼水軍といった名だたる水軍の存在、安宅船や鉄甲船といったユニークな艦船、そして火矢や焙烙を用いた激しい戦術。これらは、戦国時代の多様性と、当時の人々の知恵と勇気を私たちに教えてくれます。
次の記事では、九鬼水軍のその後について語りますので、よかったら引き続きご覧ください。